インタビュー

吉田たかよしさん

吉田たかよし Web Site

医学博士。日本で初めてNHKアナウンサー、医師、衆議院議員・公設第一秘書を歴任。
灘中学、灘高校、東京大学卒業。東京大学大学院を修了し、NHKアナウンサーとして活躍。
医師免許を取得後、元自由民主党幹事長・加藤紘一衆議院議員の公設第一秘書として科学技術政策の立案に取り組む。その後、東京大学大学院・医学博士課程を修了。

現在、本郷赤門前クリニック院長。ラジオ番組「吉田健康、あなたのドクターたかよしです」(文化放送、月〜金、AM8:00〜)、文化放送インターネットTV「吉田健康クリニック」出演中。

著書に 「思い通りに人を動かす、最強!会話術」(徳間書店)、『分かりやすい話し方の技術』(講談社ブルーバックス)、『話は最初のひと言で決めなさい!』(中経出版)、「2週間でベスト脳をつくる本!」(大和書房)、『“すぐやる人”になれる本』(成美文庫)、『脳を活かす!必勝の時間攻略法』(講談社現代新書)、「子どもの学習脳を育てる法則!」(こう書房)、『脳を天才にする!勉強法必勝バイブル』(講談社)、『勝てる子供の脳〜親の裁量で子供は伸びる』(角川書店)、『不可能を可能にする最強の勉強法』(PHP出版)、『仕事脳』(講談社)、『1分間ですべてが決まる!』(サンマーク出版)、『"できる人"は地図思考』(日経BP社)、『脳力をのばす!快適睡眠術』(PHP新書)、などがある。

※上記プロフィールは取材当時のものです。

Interview vol.20 吉田たかよしさん

NHKアナウンサー

アナウンサーの脳は「スポットライトを浴びる快感」に支配されている。その快感を追い求めるのではなく、他にも好きなことを見つけて打ち込むべき。

TBSテレビ「サンデージャポン」でもおなじみ、アナウンサーから医師という究極の転職をなさった吉田たかよしさんに、前回に続いてご登場いただきます。
今回は、「アナウンサーの脳」のメカニズムについてのお話。
アナウンサーと脳!?一体どんな関係があるのでしょうか??

Q1.「アナウンサーの脳」について教えてください。

小田さんもそうだと思うんですけど、スポットライト浴びたら気持ちいいですよね?ローカルの悪い時間よりも良い時間帯、ローカルよりも全国ネット、全国ネットの中でもゴールデンタイム、という風に枠が大きくなればなるほど、緊張もしますが同時に「快感」も高まっていきます。

この時、脳の中がどうなっているのかというと・・・

「A10(エーテン)神経」というものがあるのですが、ここが快感物質であるドーパミンを撒き散らしているんです。この「A10神経」が色々なところに枝を伸ばしているのですが、そのうちの一つが「内窩(ないか)皮質」という快感を感じる場所に枝を伸ばしているんですね。快感を感じた瞬間にドーパミンが出る。そうすると内窩皮質がそれを感じ取って気持ち良い!って思うんです。

例えば、ネズミは「餌が取れる!」とわかった瞬間にA10神経が反応して快感につながる。だから、また餌をとろうとする。ネズミが何故、餌を食べるのか?実は、お腹が減るから食べるというのは間違いで、A10神経がもたらす「快感」を得たいからなのです。

有名な実験があるんですが、ネズミを飼うケージの中に、レバーを引くと細い管から直接、ネズミの脳にドーパミンを送り込む装置を埋め込む。そうすると、ネズミはレバーを引くと気持ちいいものだから、どんどんレバーを引く。引き続けると次第にお腹が減ってくるのですが、お腹が減っても餌を食べない。いくら目の前に餌があってお腹が減っていても、餌を食べないんですよ!
何故かというと、餌を食べたときに得られるドーパミンを、レバーを引くことによって得ることができるからなんです。その結果、ネズミはひたすらレバーを引き続けて最後は餓死してしまう。

この実験で何がわかるかというと、ネズミの行動は全てドーパミンがもたらす快感を得ることによって次の行動を決めているということなんですね。

Q2.それをアナウンサーに置き換えると・・・?

アナウンサーは一度、人前に出る快感を味わっていますよね?そうすると「人前に出ると快感を得る」という回路が脳の中に出来上がっているんです。

「3・2・1・Q!」という合図でライトに照らされ、自分の姿が大勢の人に見られているという快感が猛烈に脳の中に浸透して、それをもう1回したい!もっと!ってなるんです。本当はそれぞれ自分の価値観というものを持ってはいるのですが、そんな高等な脳よりもはるかに大きな力を果たしているのが、原始的な神経系のA10神経。これには勝てない。「アナウンサーはこうあるべきだ!人生はこうあるべきだ!」と色々と考えるけれど、考えるというのは脳でいう前頭前野のことであって、それはすでにA10神経によって支配されている。どんな思想や考え方をもっていようが、このA10神経がもたらす力には勝てないんですよ。

例は悪いですが・・・いったん、覚せい剤の中毒になってしまったら、いくらそこから自分で抜け出そうと思っても抜け出せない、というのと同じくらいの脳のコンディションになっているんです。

Q3.覚せい剤!?…ではアナウンサーがA10神経の刺激構造を作ってしまうのは悪いことなのでしょうか?

全然そんなことはないです。
A10神経は別名「やる気神経」とも言われていて、「一生懸命これをやるぞ!」というのを決めている神経なんです。ネズミはA10神経が刺激されることによって、一生懸命レバーを引く。だから、A10神経が発達する環境にいるということは、何かを努力するということにおいては非常に大きな力を発揮してくれるのです!

Q4.アナウンサーとしてやる気はあっても番組がないという場合、やる気はどこに向ければよいのでしょうか?

やるべきことは一つです。自分が放送で活躍する場を作るための努力を惜しまないことです!
レバーを引き続ける(局にしがみついて、誰でもできるような番組にしがみつき続けている)のはよくないことだと思います。最後には餓死するネズミと同じです。

そこでやるべきことは「餌を食べる」こと。レバーを引き続けるのではなく、自分のためになる「餌を食べる」という行動に出なければならない。具体的に言うと、世間で自分が活躍できる素材が何かあるはずなので、それを見つける努力をするべきだということです。

アナウンサーになって1年目っていうのは、よくない傾向ですが、下手であれば下手であるほど、ちやほやされます。私もそうでした。トチればトチるほど、街を歩いてると視聴者にも慰められたりして・・・そこそこ人気が出るんです。でもおかしなことに、普通に上手くできるようになると、飽きられてしまう。

そうなる前に必要なのが、テレビに出ること以外でA10神経が刺激されるような楽しいことを探すということ。そこに、どんな需要があるのか冷静に見極めたうえでね。でも自分が楽しめるということが一番大切ですよ。A10神経は、嫌なことを無理矢理やったって、ぜんぜん刺激を受けないんです。楽しいことをどう見つけてくるか?自分の人生の中のネタを見つけることは大変なことですが、長い時間をかけてやるしかないですね。

Q5.TVに出たいという欲求を恥じるのではなく、自分で認めて、そのための努力をすべきなんですね。

そうそう!いいかっこうしてその欲求を隠すのが大間違いで、まずは「出たい!」という気持ちを認めるところからです。それがタレントとの大きな違いです。タレントっていうのは、出たいという気持ちを認めてますから、その為の努力はめちゃくちゃします。自分が売れるためなら何でもする!という勢いです。

アナウンサーも、「出たい!」という気持ちをまず認めて、その上で、A10神経が刺激されるような好きなことを見つけてそれを極め、世間から認められるように努力をするといいのではないでしょうか。

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アナウンサーが局を辞めてから出演する場を失って「病む」という現象は、脳のメカニズム、「A10神経」が関係していたのですね。
人前に出る快感以外にA10神経を刺激する何か(好きなこと)を見つけてそれに打ち込めば、自分でもびっくりするような才能が発揮されるかも!ということですね。

吉田先生、2回にわたり興味深いお話をいただき、ありがとうございました!!

(2008/10 東京・本郷にて)

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